神様がうそをつく。

神様がうそをつく。 (アフタヌーンKC)
「誰にも言わないで」「わかった。誰にも言わないよ」
小6の夏休み。少女と交わした約束が、少年を変える。(単行本帯より)
単巻の作品はあまり買わないのですが、久々に買った単巻作品がそれはそれは良かったので、感想を書かずにいられないのです。TSUTAYAさん、平積みにしてくれてありがとう。乗せられて買いました!大正解でした!
主人公は11歳の少年。淡い恋の物語かしら~☆と思うじゃないですか。ところが、チガウんだ!!!
衝撃でした。かわいくてかっこよくてキュンとするボーイミーツガールの物語なのに、その中に社会派のネタが仕込まれている。重いし、哀しいし、切ない。そしてすごくやるせない。それなのに、こんなに透明でキラキラしていて、暗さも重さも感じさせないこの仕上がりはなんだろう。すごい。
ちなみに、第一話がここで読めます。結構いいところまで読めちゃいます!登録もアプリダウンロードも不要で、クリックするとすぐ出てくるのが素敵。→講談社コミックサイト『モアイ』神様がうそをつく第一話
主人公は、東京から転校して来たサッカー少年・七尾なつる11歳。来て早々にクラスのお姫様ポジションの女子を振った事で、女子から総スカン状態。そんな彼に、ある日クラスの女子が話しかける。

女子との久しぶりの他愛もない会話。クラスメイトの鈴村理生は、背が高くランドセルの似合わない少し大人びた少女。
ある日の帰り道、なつるが子猫を拾った事で2人は更に距離を縮めます。母親が猫アレルギーのため家で飼えないなつるは、偶然会った鈴村さんに面倒見てくれないかとお願いする。 そのお願いに鈴村さんは。『よういくひ』と。

猫の面倒を見る代わりに “よういくひ” として月1000円払ってくれる?と。明日学校へ持っていくと約束したなつるは、その日、買い物へ向かう彼女についてスーパーへ。そのまま彼女の家まで一緒に行く事に。
鈴村さんの家は、お世辞にも裕福とは言えない傷み具合。そして、上がった家にはひと気がありませんでした。ここでなつるは思いもよらない事実を知ります。
『…私たち 二人で暮らしてるの』

『誰にも言わないでね 七尾くん』
2人が秘密を共有した瞬間。ここから、秘密を守るためのひと夏が始まります。
冷めた雰囲気の鈴村さん、芯が強くて優しいなつる。どこか大人びた2人が、不意に訪れる初めての異性との接触にドキドキする様子がたまらなくかわいい。スーパーの袋を持ってくれたなつるに、鈴村さんの心が揺れるとか、

急な雨に、急いで洗濯物を取り込んで!と頼まれたなつるが、手にした洗濯物が鈴村さんのパンツで慌てるとか、

もおかわいくって胸がキュンキュンするぜ!こういうドキドキ体験は小学生でも高校生でも変わらないですよね。
さて、なつるはサッカー少年ですが、チームをみていた初老の監督が癌で入院してしまう。新しい監督と反りが合わないなつるは、親に内緒で泊りがけの夏合宿をさぼってしまいます。さぼったものの行き先のないなつる。公園でお弁当を食べていたところに、鈴村さんに出くわし、そのまま彼女の家に泊まる事に。
ここらへんの、公園や家の庭のシーンが良いのです。暑くて蒸し蒸しした空気の中に、生い茂る木々の匂いが混じっていて、背後ではセミが全力で鳴いている。そんな夏の空気がページから流れ出してくるようで、無性に懐かしい気持ちになります。
そして、この後の展開もまたキュンが止まらないんだ!家に泊まったなつるは、鈴村さんの手料理を食べる。家のお風呂を借りる。夜は同じ布団で寝る。その一つ一つをお互いが意識しちゃってるのが分かる。いつも幼い弟がいるので2人きりではないのだけれど、ドキドキするには十分な状況ですよね!?
夜は弟にねだられた怪談話で盛り上がります。とそこで、急にガタガタと鳴り出した扉に震え上がる3人。勇気を出して様子を見に立ったのはなつる。原因はクワガタが扉に当たって暴れていただけなのですが

僕は 彼女がなぜ泣いているのか本当の意味も知らずに
腕の中で震えるあたたかな感触に しびれていた
泣き出す鈴村さんの肩を抱くなつるの中で、彼女が守るべき対象として認識されていく様子がたまらない。少年が青年になっていく途中を今私たちは見ているんだよねきっと。うぅ、たまらん/// そして、この涙の裏側の大きな大きな秘密は、もう少し後で明らかになります。
こんな風に過ごす3人はまるで家族のよう。なつると鈴村さんが父母、弟は2人の子供に見える。みんな子供なのに、不思議だ。本来、本当の家族に求めるものをお互いが補い合っているようで切ない。
さて、数日後。
家に漁師をしている父親が帰ってくるといいます。(母親はずっと前に出て行ってしまった。)そもそも不在にしているのは、アラスカにカニ漁に出ているからという、本当なのか怪しすぎる理由です。
ところが、待てど暮らせど帰宅せず、見かねたなつるが鈴村さんをお祭りに誘います。この時に初めてなつるが「りお」って呼ぶんだ。浴衣に着替えた理生との夏祭り。やばいドキドキするぜ。
盆踊り、祭り囃子、屋台、浴衣姿の女の子。夏ですね!!!もうね、夏祭り(

『なつる君 ありがとう』
そう言う彼女を眩しそうに見るなつる。

鈴村理生を 好きになった
なつるの中に芽生えた淡い恋。どうしようもなくかわいくて切ない。
家に帰った3人。そこでなつるが信じられないものを見つけます。死んでしまったクワガタを庭に埋めた時に、出てきたもの。

それは、人の骨。庭に埋まった白骨死体でした。
ラズベリーの下に埋められた死体は 天国へは行かずにそこにいた
庭に何かがある事は匂わされてきたのですが、まさか死体とは…一体どんな話なの!?って本気で驚きました。庭から死体なんて金田一少年の事件簿じゃあるまいし。
なぜ庭に白骨死体が埋まっていたのか。そこには、本当に辛く胸の痛む理由がありました。
父親が「アラスカに漁に出て行く」といなくなった時、家にはまだおじいちゃんがいました。そのおじいちゃんが理生が学校に行っていた間に、不慮の事故なのか発作なのか、急逝してしまう。
幼い弟、電話に出ない父親、腐り始めたおじいちゃんの死体。そして「理生は頼りになる」という父親が残した言葉がのしかかる。
理生は 死んだ祖父の遺体を一人で庭に埋めた
死体をどうしていいか分からない、バレたら無責任な父親がバッシングされる
「誰にも言わないで」と言われたなつるもまた、秘密の共有者として苦しんでいきます。もしも誰かに話したら 理生は警察につかまるのかな でもだまってたら もしかして俺も共犯になるのか?そんな風に悩みながら、理生を守りたい一心で秘密を抱え込むなつる。
夏休み明け、なつるは理生をからかった女子を殴って怪我をさせてしまい、母親が学校に呼び出されます。
なつるの理解者であり、煩い事を言わない母親・りっちゃんがこの時ばかりは「どうしちゃったの!?」と問い詰める。どんな理由があっても女の子を殴ったらだめだと。
その言葉になつるが噛みつく。
『悪いことだってわかってても それしかできない時って どうしたらいいの!?』

なつるの脳裏には、どうしようもなくて死体を埋めた理生の姿。問いかけがズシリと響く。。。重いなあ。果たして何人の人がこの問いに答えられるんだろう。11歳は、人が大切にしなければならない事のほとんどをもう知っている。だから11歳が疑問に思う事なんて、大人だって答えられない事ばっかり。大人ってなんだろう…なんて青臭い事を考えてしまう…。私の頭に浮かんでくる大人の定義は、いまいちしっくりこない。
なつるが苦しむということは、母親のりっちゃんだって苦しい。亡くなった夫の写真に向かって『
さて、理不尽な状況は終わらない。トドメのように、この日鬼畜な現場を目撃する理生。なんと、アラスカにいるはずの父親が、家の近くで女といちゃこらいちゃこらしている姿に出くわします。しかもその時、理生を「知らない子」にするという。世の中終わってる。
気力を失い何もできない理生。そんな彼女の前に、救世主のようになつるが現れる。
『いっしょに逃げよう』
あてもなく電車に乗り、着いた場所は海のある町。海辺ではしゃぐ3人。「大人になったら何する?」と聞く弟。なつるの夢はサッカー選手、理生はおよめさん。ここで思わず「誰の?」と聞くなつるがかわいい。この時に、理生が語るなつる像がなんだか切なくて胸がキュンとなる。
「サッカーの授業だと誰も相手にならない」「足もすごく速い」「なつる君が走ると風の音がして校庭がゆれてるように思える」。ああ、理生から見たなつるって、ホントかっこいいなあ。
『

そう言って、このくらいかな、と低い位置からなつるを見上げる理生。そんな彼女を、
近くの民宿に入った3人。海の見える部屋の窓から海を眺めていたなつると理生。不意に理生が押入れに入り、中から手招きする。こっちに来て、と。背を屈めてなつるが押入れの中に入ると…。

『…なつる君はいつも遠くに見える青空みたいだった…』と理生が語る。そして、
『ありがとう なつる君 なつる君が私たちの家族になってくれるなんて 思わなかったよ』
そう言って理生がなつるにキスすると、なつるの目から涙が溢れる。今度はなつるからキスすると、理生もポロポロ涙をこぼす。。
泣けた。こんなに幼くてかわいい少年少女なのに、男女っぽくもあってドキドキさせられて、でもたまらなく切なくて痛くて泣けるキスシーンがあるのね(涙)私は、ドキドキとキュンと涙の同居する感覚を初めて体感しました。狭い押入れの中で抱き合う2人は、小さくて頼りなくて、でもお互いを守るために一生懸命で、たまらなく愛しいです。
民宿の主人が警察に連絡した事で、逃避行が終わります。理生はパトカーへ、なつるはりっちゃんと車へ。
その車中、りっちゃんが聞きます。
『今までずっと あの娘を守っていたの?』

その言葉に堰を切ったように声を上げて泣くなつる。私の感情も決壊。そうなんです。守っていたんです。小さな世界の中で一生懸命守っていたんです。そんな息子を叱るでも責めるでもなく、ただ側に寄り添うりっちゃんの姿勢にまた泣ける。
ふとなつるが、亡くなった父親の事を話題にする。「なつるがいい子にしていたら 神様が見ていてお父さんの病気を治してくれる」という、父親の言葉。りっちゃんが言います。『それは 神様も時々は嘘をつくのよ』。なんで?と聞くなつる。
『それは… おまえのことが大好きだからよ…』

嗚咽。ああそうか、こんな素敵な嘘は、ちゃんとした大人にしかつけないかもしれない。大人って?と思っていたけれど、こういう事言える人が大人なんだって急に腹に落ちました。
エンディングは、シビアでもあり、希望もあり。
理生の父親はアラスカではなく同じ町内のホステスの部屋にいたとか、そんな父親より理生に世間の好奇の目が向いたとか、りっちゃんの「やったのが母親ならもっと叩かれる」というもっともなコメントとか、理生の噂を聞いたなつるが2.3人殴って評判が最悪だとか、色々とやるせない。そして、理生と弟はあの日以来、別の町の施設で暮らす事になる。
数か月が過ぎ、桜の季節。もうじき中学生になるなつるの元にかかってきた、一本の電話。それは「なつる君がサッカー選手になる夢」を見た、という理生からの電話。希望を感じる優しい終わり方でした。
家族ってなに、大人ってなに、子供ってなに、責任ってなに、みたいな分かっているようで多分分かっていない事をつきつけられた。そして、小学生の世界の小ささも、そこからの逃れようのなさにも、改めて気づく。その「どうしようもなさ」は、自分も通った時期とはいえ、そこそこ自由を手に入れた立場から見ると、なんだか色々とやるせない。
そんな重さの一方で、なつると理生の恋にフォーカスすると、それはそれで大変おいしい。まず、少年が青年になっていく姿がたまらん。だって、なつるはりっちゃんのおっぱい揉んでるくらいまだまだガキなのに、理生といる時は惚れちゃうくらい男らしいんだよ。加えて、理生ちゃんの恋心もたまらないんだ。だって、なつるのために「彼がよろこぶかんたんレシピ」とか本屋で立ち読みしちゃうんだもん。どっちもかわいすぎて抱きつぶしたいよ!
その時期の最中の方より、大学生以上の方に刺さる気がします。そして、できれば夏に読みたい作品です!まだ夏日が続いているうちに是非♪
---
読後に、この歌とこの歌を思い浮かべる。
この記事へのコメント
うわぁぁ!!!
すごい深い話ですね!!
骨が埋まってるとか∑(゚Д゚)
もう、このマンガのジャンルがわかんなくなってしまいますよT^T
でも、いいお話ですね!!
感動しましたT^T
すごい深い話ですね!!
骨が埋まってるとか∑(゚Д゚)
もう、このマンガのジャンルがわかんなくなってしまいますよT^T
でも、いいお話ですね!!
感動しましたT^T
トラックバック
URL :
まことさんへ - コミックボブ - 2014年02月15日 12:49:19
> すごい深い話ですね!!
> 骨が埋まってるとか∑(゚Д゚)
> もう、このマンガのジャンルがわかんなくなってしまいますよT^T
ビックリですよね!白骨って!!∑(゚Д゚)
でも、この白骨…というか死体埋めるっていう行為はメタファーなんだろうな~って思いました。
> でも、いいお話ですね!!
> 感動しましたT^T
そうなんです、感動でした(>_<)