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Piece(ピース) 9巻


戻って来い

遂に追い求めてきたピースが見つかって空白のスペースが埋まり、全体像が明らかになるPieceの9巻です。謎が一つ一つクリアになる過程で露わになる人間の弱さや醜さ狡さ、そして強さや潔さが、他人事とは思えなくて胸が痛くなります。

礼美の「子供を堕したのは私」という告白で終わった8巻。9巻ではその時のエピソードが詳しく描かれています。
ぽっちゃりした見た目にコンプレックスのある礼美が、そんな自分に優しくしてくれた坂田コウジに心惹かれ、流れのままにセックスするようになったけれど相手はただの遊びだった   決して特別なエピソードではなく、どこにでもある普通の失恋話。

それがこんな事を引き起こしたのは、冒頭の通り礼美が妊娠してしまったから。礼美が浅はかだったとか、コウジがヒドい奴だったとか、そんな単純な事ではなく、礼美には礼美のコウジにはコウジの歪みがあり、それが重なり合って結果的にこうなってしまった。そんな風に感じられる2人の心の機微が、礼美目線とコウジ目線で描かれています。

折口さんと礼美の出会いは、折口さんの働く本屋で、コウジの心が分からず礼美がマニュアル本を買おうとした事がきっかけ。それから礼美は折口さんに悩みを打ち明けるようになります。

そして、コウジからの連絡は途絶え、子供を堕し、自己嫌悪に苦しむ礼美を救ったのも折口さん。

『記憶の改ざんくらいしたって誰にも迷惑かかんない 大丈夫 忘れよう』



その言葉と共に、折口さん自身も礼美から距離を置きます。自分との関係から、誰かが何かを憶測する事がないように。
自分との関係も含めなかったことにした、この折口さんの心からの配慮が、泣ける。折口さんは、知れば知るほど比呂に似合う人だと思えてきます。自分でも気づかぬうちに、弱さを武器に他人を傷つける比呂には、この位強く優しい心の持ち主でなければ付き合い切れませんよね。 礼美の口から一部始終を聞いた水帆は、翌日、コウジのいる名古屋行きの切符を差し出します。『会って… 言いたいことがあったんじゃないの?』と聞かれ、コウジと会う決意をする礼美。

コウジに会う前に、礼美は当時のコウジが語ってくれた事を思い出します。子供の頃の出来事や夢、現在の葛藤。真実かどうかは礼美には分からない事ですが、それが限りなく実話なんです。気持ちは嘘でも、語る事まで全て嘘で塗り固めたわけではなかったようです。

さて、そんな彼から語られるのはどんな事なのか…。
名古屋に到着し皓から聞き出した仕事場へ向かうと、そこにはコウジの姿がありました。そして、3人は近くのカフェで話をすることに。

コウジは礼美と向き合って話す前に、昔の事を自分の中で振り返ります。
丸尾を崖から蹴落とした瞬間から狂いはじめたコウジの人生。あの瞬間、加害者だったのはコウジと皓。一線を越えてからコウジは身を持ち崩していましたが、一方の皓は進学校へ通い女と遊び、ハタ目には順風満帆。そして何事も無かったかのように、狂気を内包したまま無邪気に笑う。
あの一件を知るコウジの友人・木戸は、要領の良い皓に利用されて、結果的にコウジだけが割りを食わされているんじゃないかと指摘します。元々コウジは何だかんだ言っても周囲に愛されるガキ大将で、狂気の人ではなかったと。

そんな中、皓からの頼まれ事で長門と森田という2人組から恨みをかったコウジは、彼らに過去を調べ上げられ、付け回され、恐喝され、生活をめちゃくちゃにされます。

割りを食った気持ちが膨らみかけていたコウジは、皓に近づく目的で、皓と同じN高の生徒の礼美に近づいた。そして礼美と話をする中で、自分とはレベルの違うコンプレックスを抱く彼女に苛立ちを覚えます。オレの住む世界はヒエラルキーの最下層のその下の下 と思っているコウジにしてみたら礼美のコンプレックスはおめでたい悩み。そして、皓と同じ制服を着て無邪気に笑う彼女に、

『無防備に笑えるのは 最低限 自分に自信があるからだ』

と思うコウジ。そこに、無邪気に笑う皓を重ねたのでしょうか。そんな礼美を手荒に扱う事で、鬱憤を解消していたのかもしれない。

知れば知るほど、木戸の言う通り、コウジはなんだかんだ言って人間味のあるガキ大将だった事が分かります。そして、そんな彼が礼美に持っていた感情は無機質なものだけだけではなくて、例えば、礼美の口から出てきた “太宰” を試しに読んでみるひとコマがあったりする。でも長門と森田の存在が、コウジに普通の生活を送る事を許さない。一度犯した過ちが、しつこくコウジの人生に絡みついてくる。

礼美と水帆の待つ店に現れたコウジは、本音が聞きたいという礼美に対して、

『君を特別愛してたわけじゃない だから逃げたんだ』

と、近づいたのは皓を逆恨みした結果だとハッキリ告げます。
そんな事はもう分かっている。それでも、私は好きだった、忘れられない瞬間があったと言う礼美は『傷ついたけど 必ず糧にする』と言って席を立ちます。

それを聞いて、最後に呼び止めるかのようにコウジが言った言葉。

『あの瞬間 君が必要だった それも… 本当だよ』



礼美もきっとコウジを深く愛していたわけではなくて、女の子として優しく接してくれたなら、コウジじゃなくても恋に落ちたんでしょう。コウジは、皓と重なる誰かを傷つける事で憂さ晴らししたわけで、どちらも自分の中の埋まらない気持ちを無理矢理埋めようとした、という点で共通していたんですね。まあでも、コウジは二度と悪さができないように阿部定の亡霊にアレをチョキンとカットされてしまえばよろしいw

さて話は変わり、皓と矢内先輩はというと。
水帆と礼美が名古屋で下車してから、東京までの車中、矢内先輩は皓がなぜ手紙を届ける気になったのか聞き出します。

皓の回答には、これまで明かされていなかった事実があり、ここでもまたパズルの空白が一つ埋まりました。
理由の一つ目は、折口はるかがバカ過ぎて。二つ目は、須賀ちゃんがバカ過ぎて。三つ目は、長門と森田もバカ過ぎて 目ざわりで。

長門と森田は、コウジの前に現れて恐喝している彼らの事です。この2人が黒幕の皓の前に現れないはずもなく、コウジ同様、皓も彼らに恐喝されているんです。『一生まとわりついてやるよ』の言葉通り、ちょいちょい現れる長門と森田。それが、『重くて』。そして、彼らはたまたま須賀ちゃんを見かけ、それも皓の脅しのネタに使う。『だから    … オレ 本気でアイツらを… 殺してやろうと思って家を出たの』と言う皓。なるほど、家を出た理由はコレだったのか。

それを止めたのは他ならぬコウジ。神戸に向かう前、名古屋でコウジに会った皓は、あいつらを『殺してやるよ』と言うのですが。

『やめとけ やるな』



そして、かつての共犯者コウジにまで『お前 頭 大丈夫かよ いかれてる』と言われてしまう皓。それはこれまで出会った人達から散々言われてきたセリフ。もしそうなのだとしたら、一体なぜそうなってしまったのか。

明日20歳の誕生日を迎える皓は、母親との約束通りあと1日で家を出ていかなくてはならない。
矢内先輩と別れ家に帰ると、最後に七尾さんが作った苦手なオムライスが出てきます。皓は卵が食べられない。それは、かつて比呂が皓につけた心の傷です。七尾さんは、もう食べられるはずだと言うのですが、でも皓はやっぱり嘔吐してしまう。

比呂につけられた小さな心の傷は、卵の殻のひび割れが徐々に広がり、いつか殻が全て剥がれ落ちるように、皓の中で広がっていきました。



そしてこの後、水帆が訪ねて来た頃には皓の姿はそこにはなく   また姿をくらました皓。あーどこまでも捕まらない男だ。水帆や矢内先輩と話している皓を見るだけで、そこに居る事に感動してしまうくらい、このマンガでは皓を探し回った時間が本当に長かった!

矢内先輩に言われた「逃げるなよ」を皓はどう捉えているんでしょうか。自分の過去から逃げていた礼美は、それは逃げ切れるものじゃないと悟り、自分なりに清算した。自分に関わる人全てが重いと感じる皓は、その重さから逃げたいと思っているわけですが… この流れだと、やはり皓も逃げずに何らか答えを出すしかないんでしょう。そもそも、折口さんを巡る一連の謎は解けたわけですから、このマンガの着地って皓のトラウマ越え以外にあるのだろうか…??
うーむ。ひとまず、皓が向かった先がどこかが、ラストに向けた重要な展開のキーになりますね。どこへ向かったのかは、全く分からん。でも、こんな分からない皓が最初から最後まで好きだ。

丸尾とコウジは8巻9巻で株上がりましたよね。丸尾なんてどんだけ性格イケメンなんだと感動するレベルですし、コウジは芦原先生が「少女マンガのヒーロー的要素を持っている」と書いた意味が分かるような太陽っぽさを持っている。キャラを深堀りして最も残念だった人は比呂かもしれないw

次の10巻がラストだそうです。芦原先生は安い終わり方はしない、きっと納得のいくラストを描いて下さると信じていますが、今からドキドキして仕方がない!最終巻は6月発売予定です☆

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皓よりも礼美ママの洗濯物への鋭い指摘の方が怖かった
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