 | - 芦原 妃名子
- 発売日 : 2012/12/26
- 出版社/メーカー : 小学館
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戻って来い遂に追い求めてきたピースが見つかって空白のスペースが埋まり、全体像が明らかになるPieceの9巻です。謎が一つ一つクリアになる過程で露わになる人間の弱さや醜さ狡さ、そして強さや潔さが、他人事とは思えなくて胸が痛くなります。
礼美の「子供を堕したのは私」という告白で終わった8巻。9巻ではその時のエピソードが詳しく描かれています。
ぽっちゃりした見た目にコンプレックスのある礼美が、そんな自分に優しくしてくれた坂田コウジに心惹かれ、流れのままにセックスするようになったけれど相手はただの遊びだった
決して特別なエピソードではなく、どこにでもある普通の失恋話。
それがこんな事を引き起こしたのは、冒頭の通り礼美が妊娠してしまったから。礼美が浅はかだったとか、コウジがヒドい奴だったとか、そんな単純な事ではなく、礼美には礼美のコウジにはコウジの歪みがあり、それが重なり合って結果的にこうなってしまった。そんな風に感じられる2人の心の機微が、礼美目線とコウジ目線で描かれています。
折口さんと礼美の出会いは、折口さんの働く本屋で、コウジの心が分からず礼美がマニュアル本を買おうとした事がきっかけ。それから礼美は折口さんに悩みを打ち明けるようになります。
そして、コウジからの連絡は途絶え、子供を堕し、自己嫌悪に苦しむ礼美を救ったのも折口さん。
『記憶の改ざんくらいしたって誰にも迷惑かかんない 大丈夫 忘れよう』
その言葉と共に、折口さん自身も礼美から距離を置きます。自分との関係から、誰かが何かを憶測する事がないように。
自分との関係も含めなかったことにした、この折口さんの心からの配慮が、泣ける。折口さんは、知れば知るほど比呂に似合う人だと思えてきます。自分でも気づかぬうちに、弱さを武器に他人を傷つける比呂には、この位強く優しい心の持ち主でなければ付き合い切れませんよね。
礼美の口から一部始終を聞いた水帆は、翌日、コウジのいる名古屋行きの切符を差し出します。
『会って… 言いたいことがあったんじゃないの?』と聞かれ、コウジと会う決意をする礼美。
コウジに会う前に、礼美は当時のコウジが語ってくれた事を思い出します。子供の頃の出来事や夢、現在の葛藤。真実かどうかは礼美には分からない事ですが、それが限りなく実話なんです。気持ちは嘘でも、語る事まで全て嘘で塗り固めたわけではなかったようです。
さて、そんな彼から語られるのはどんな事なのか…。
名古屋に到着し皓から聞き出した仕事場へ向かうと、そこにはコウジの姿がありました。そして、3人は近くのカフェで話をすることに。
コウジは礼美と向き合って話す前に、昔の事を自分の中で振り返ります。
丸尾を崖から蹴落とした瞬間から狂いはじめたコウジの人生。あの瞬間、加害者だったのはコウジと皓。一線を越えてからコウジは身を持ち崩していましたが、一方の皓は進学校へ通い女と遊び、ハタ目には順風満帆。そして何事も無かったかのように、狂気を内包したまま無邪気に笑う。
あの一件を知るコウジの友人・木戸は、要領の良い皓に利用されて、結果的にコウジだけが割りを食わされているんじゃないかと指摘します。元々コウジは何だかんだ言っても周囲に愛されるガキ大将で、狂気の人ではなかったと。
そんな中、皓からの頼まれ事で長門と森田という2人組から恨みをかったコウジは、彼らに過去を調べ上げられ、付け回され、恐喝され、生活をめちゃくちゃにされます。
割りを食った気持ちが膨らみかけていたコウジは、皓に近づく目的で、皓と同じN高の生徒の礼美に近づいた。そして礼美と話をする中で、自分とはレベルの違うコンプレックスを抱く彼女に苛立ちを覚えます。
オレの住む世界はヒエラルキーの最下層のその下の下 と思っているコウジにしてみたら礼美のコンプレックスはおめでたい悩み。そして、皓と同じ制服を着て無邪気に笑う彼女に、
『無防備に笑えるのは 最低限 自分に自信があるからだ』と思うコウジ。そこに、無邪気に笑う皓を重ねたのでしょうか。そんな礼美を手荒に扱う事で、鬱憤を解消していたのかもしれない。
知れば知るほど、木戸の言う通り、コウジはなんだかんだ言って人間味のあるガキ大将だった事が分かります。そして、そんな彼が礼美に持っていた感情は無機質なものだけだけではなくて、例えば、礼美の口から出てきた “太宰” を試しに読んでみるひとコマがあったりする。でも長門と森田の存在が、コウジに普通の生活を送る事を許さない。一度犯した過ちが、しつこくコウジの人生に絡みついてくる。
礼美と水帆の待つ店に現れたコウジは、本音が聞きたいという礼美に対して、
『君を特別愛してたわけじゃない だから逃げたんだ』と、近づいたのは皓を逆恨みした結果だとハッキリ告げます。
そんな事はもう分かっている。それでも、私は好きだった、忘れられない瞬間があったと言う礼美は
『傷ついたけど 必ず糧にする』と言って席を立ちます。
それを聞いて、最後に呼び止めるかのようにコウジが言った言葉。
『あの瞬間 君が必要だった それも… 本当だよ』
礼美もきっとコウジを深く愛していたわけではなくて、女の子として優しく接してくれたなら、コウジじゃなくても恋に落ちたんでしょう。コウジは、皓と重なる誰かを傷つける事で憂さ晴らししたわけで、どちらも自分の中の埋まらない気持ちを無理矢理埋めようとした、という点で共通していたんですね。まあでも、コウジは二度と悪さができないように阿部定の亡霊にアレをチョキンとカットされてしまえばよろしいw
さて話は変わり、皓と矢内先輩はというと。
水帆と礼美が名古屋で下車してから、東京までの車中、矢内先輩は皓がなぜ手紙を届ける気になったのか聞き出します。
皓の回答には、これまで明かされていなかった事実があり、ここでもまたパズルの空白が一つ埋まりました。
理由の一つ目は、折口はるかがバカ過ぎて。二つ目は、須賀ちゃんがバカ過ぎて。三つ目は、長門と森田もバカ過ぎて 目ざわりで。
長門と森田は、コウジの前に現れて恐喝している彼らの事です。この2人が黒幕の皓の前に現れないはずもなく、コウジ同様、皓も彼らに恐喝されているんです。
『一生まとわりついてやるよ』の言葉通り、ちょいちょい現れる長門と森田。それが、
『重くて』。そして、彼らはたまたま須賀ちゃんを見かけ、それも皓の脅しのネタに使う。
『だから … オレ 本気でアイツらを… 殺してやろうと思って家を出たの』と言う皓。なるほど、家を出た理由はコレだったのか。
それを止めたのは他ならぬコウジ。神戸に向かう前、名古屋でコウジに会った皓は、あいつらを
『殺してやるよ』と言うのですが。
『やめとけ やるな』
そして、かつての共犯者コウジにまで
『お前 頭 大丈夫かよ いかれてる』と言われてしまう皓。それはこれまで出会った人達から散々言われてきたセリフ。もしそうなのだとしたら、一体なぜそうなってしまったのか。
明日20歳の誕生日を迎える皓は、母親との約束通りあと1日で家を出ていかなくてはならない。
矢内先輩と別れ家に帰ると、最後に七尾さんが作った苦手なオムライスが出てきます。皓は卵が食べられない。それは、かつて比呂が皓につけた心の傷です。七尾さんは、もう食べられるはずだと言うのですが、でも皓はやっぱり嘔吐してしまう。
比呂につけられた小さな心の傷は、卵の殻のひび割れが徐々に広がり、いつか殻が全て剥がれ落ちるように、皓の中で広がっていきました。

そしてこの後、水帆が訪ねて来た頃には皓の姿はそこにはなく
また姿をくらました皓。あーどこまでも捕まらない男だ。水帆や矢内先輩と話している皓を見るだけで、そこに居る事に感動してしまうくらい、このマンガでは皓を探し回った時間が本当に長かった!
矢内先輩に言われた「逃げるなよ」を皓はどう捉えているんでしょうか。自分の過去から逃げていた礼美は、それは逃げ切れるものじゃないと悟り、自分なりに清算した。自分に関わる人全てが重いと感じる皓は、その重さから逃げたいと思っているわけですが… この流れだと、やはり皓も逃げずに何らか答えを出すしかないんでしょう。そもそも、折口さんを巡る一連の謎は解けたわけですから、このマンガの着地って皓のトラウマ越え以外にあるのだろうか…??
うーむ。ひとまず、皓が向かった先がどこかが、ラストに向けた重要な展開のキーになりますね。どこへ向かったのかは、全く分からん。でも、こんな分からない皓が最初から最後まで好きだ。
丸尾とコウジは8巻9巻で株上がりましたよね。丸尾なんてどんだけ性格イケメンなんだと感動するレベルですし、コウジは芦原先生が「少女マンガのヒーロー的要素を持っている」と書いた意味が分かるような太陽っぽさを持っている。キャラを深堀りして最も残念だった人は比呂かもしれないw
次の10巻がラストだそうです。芦原先生は安い終わり方はしない、きっと納得のいくラストを描いて下さると信じていますが、今からドキドキして仕方がない!最終巻は6月発売予定です☆
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皓よりも礼美ママの洗濯物への鋭い指摘の方が怖かった
Piece 8 芦原妃名子 (フラワーコミックス)出ました。Piece 8巻。クライマックスに向けて加速中(暗くて重い方へ)!!ついに水帆と比呂が偶然出会って、全てが明らかになっていきます。
偶然神戸で比呂を見つけた水帆。
比呂は水帆が皓の知り合いだと知り、
『二度と皓に振り回されたくない』と関わりを拒否するのですが、結局、必死な水帆の懇願に負けて話を始めます。
比呂の口から語られたのは、彼と皓の過去。幼い頃の二人と、次第に変わってゆく二人、そして、彼の皓に対する感情についてでした。
皓に必要とされたくて 必要とされたくて
でも ーーその一方で 無性に皓を傷つけたかった比呂の皓へのまっすぐな愛情は、成長していく中で次第に屈折し、皓も比呂自身も傷つけるようになっていった。
そんな中出会った折口はるかに、比呂は心を救われた…
成長の過程で、比呂はどんどん弱く脆く、皓はどんどん強く硬くなっていくんですが、線が細く見える方が案外図太いのが世の常。なんだかんだ、比呂のがしぶとく生きていくんだろうな〜。
続けます。
比呂ははるかが死んでしまったことを知らず、いつか会いにいくことを支えに生きていて、水帆はいたたまれなくてはるかが亡くなったことを告げるのですが、比呂は信じようとしません。
そこに電話が。

皓から水帆への電話、とったのは比呂です。
やっと接触!!なんですけど、皓を避けるように比呂は店を出て行きます。
水帆は比呂を追いかけて、比呂が寝泊まりする古い雑居ビルへ。
そこには、「感情が爆発したような」比呂の絵が一面にあって、水帆は折口はるかの元彼が比呂であることを確信します。
そこで、比呂は告白するんです。
丸尾を殺しかけたのは皓ではなく、自分だと。そして、そんな自分をはるかなら赦してくれると期待したと。
感情が溢れて止められなくなった比呂は、絵画に放火。
その火は、消そうとした水帆に引火します。
おい!もう、感情が振れた人の典型的な行動パターン。水帆は完全にとばっちりですね!
水帆に引火して我に返った比呂は、電話の向こうの皓と丸尾に助けを求めます。動揺と焦りで泣きながら電話口に叫ぶ比呂を見ながら、水帆は思うんです。
純粋で残酷な子供のままのこの人を 折口さんは残して逝っちゃったのか…
これだから 誰かを心底好きになるのがこわくなるんだよはるかを失った目の前の比呂と、いつか消えそうな成海を想う自分とが重なったんでしょう。
そこに成海が現れます。火傷を負った水帆を見つけて…
『こわかった? ごめんね』
そう言って水帆を抱きしめる皓。
もう水帆にとっては、放火より火傷よりまた皓が消えちゃうことのが怖いんですよね。
こういう絶対のタイミングで現れて感情全部持っていく人、います!水帆がここまで振り回されて、それでも皓を追いかけてしまう理由が、このひとコマに凝縮されているようだ…
女性に尽くさせたり貢がせたりできる男性ってこのタイプ多いです。無邪気なのに陰があってふらふらしていて掴めない。もう無理、付き合いきれないっ!と思ったところに絶妙のタイミングで現れて、また気持ちを持っていかれる。
男に生まれるなら、こんな風に生まれてみたいw
火傷した水帆を連れて行った病院で、皓は比呂にはるかの遺言を渡します。
皓が比呂を探していた理由。それは、遺言を伝えるためだったんです。
そこには、一言だけ。
その一言だけ 伝えられたら充分沢山沢山伝えたいことがあると思っていたけど、いざとなったらたった一言だった。
皓は続けます。
『「真っ暗な闇を」「混沌とした世界を」「キラキラ七色に輝く眩しい風景を」』

『「ありがとう」「幸せだった」
って伝言。伝えたからな。』
泣き崩れる比呂。
赦されたいという彼の願いを、はるかは叶えてくれましたね。
丸尾とも会えたし!結果的に、話を聞いてもらえたし!丸尾、存在薄くて可哀想だなw
ようやく、水帆の目的も、皓の目的も果たされたんですが、疑問があとひとつ。
はるかを妊娠させたのは誰か?
実は、妊娠していたのははるかじゃなくて礼美だったーー!
というところで終了。
謎は全て解けた!あとは水帆と皓の行く末を見届けるだけ!
比呂のことはあんまり心配してません。この兄弟は、どっちも女性が放っておけないオーラ出まくりなので、大丈夫w良い人に拾われたしね。
ところで。
芦原先生は本当に、人間の弱さとか、心に潜む闇や狂気を描くのが上手いなぁと、思います。(エラソーにすみませんm(_ _)m)『砂時計』という作品があるんですが、内容は全然違うけど、Pieceと何か共通するものを感じます。
久々に読んじゃおうかな。
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あ、矢内先輩の存在忘れてた。
Piece 7 芦原妃名子 (フラワーコミックス)折口はるかが生前「便利屋NEO」の岸辺という男に依頼していた仕事ーーそれは、かつて成海と坂田が殺しかけた丸尾を探し出し、手紙を届けることだった。岸辺の店を訪ね、本人から話を聞き出した水帆と矢内だったが、同時に、予想すらしていなかった衝撃の事実を知ることに!ついに「はるかの元彼」にたどり着いた水帆たちは…!?散らばったピースが集まり始めて、いよいよ真実が明らかになりそうなPieceの7巻。刑事顔負けの執念で"折口はるかの元恋人"を探し続けてきた水帆たちの努力がようやく報われる!?
(発売サイクルが長くて、やや話を見失ってます…)
元恋人探しの過程で、登場人物の過去や本音・裏側といった普段見えない部分がどんどん出てくるのですが、それがまた超暗い!特に皓(ひかる)の闇は、暗さに重さが加わっていて、気持ちがフワフワした時に読むと、重力で一気に現実に戻ってこれます。。
折口はるかが仕事を依頼した"便利屋NEO"という探偵屋を探し出した水帆と矢内は、はるかが依頼したことの全てを聞き出します。
はるかは丸尾という男を探していました。はるかの元恋人はかつて丸尾を暴行し、大怪我を負わせた。そのことを謝罪するための手紙を、はるかは丸尾に渡したかったんです。
丸尾を殺しかける暴力事件を起こしたのは皓です。
ということは、はるかの元恋人は成海皓だ、と水帆と矢内は思います。
それを知った水帆は動揺します。
どうしよう びっくりするくらい ショックだ
成海が折口さんの元彼だって事実より もっとーー
成海が折口さんに"心を"
水帆は今まで、成海は誰にも心を開かないから、私にも開いてくれないんだわ~と思っていたんですね。でも、はるかには心を許していた……。これは、実はふられちゃってた自分にも、勘違いしていた自分にも大ショック。
ところが、これはちょっと勘違いです。
折口さんの彼はアクリル絵の具の匂いがしたはず…。皓は絵を描きません。
そして、丸尾の暴行現場にはもう一人いたんです。
皓のひとつ年上の兄、成海比呂。
二人は幼い頃に、心理学者の母親の異常行動により東京と茨城に分かれて別々に暮らしていました。生まれ持った"本質"が混ざらないように、二人を隔離して育てようとしたんです。
他人の気持ちに敏感でおとなしかった兄の比呂は、家政婦さんのこんな言葉をきっかけに絵を描くようになります。
怒りたい時は怒っていい 泣きたい時は泣いていい
喜びも悲しみも全部 自由に!
感情を抑えがちだった比呂は、描くことで自分を表現するようになります。
月日は流れ、高校生になったある日、茨城で偶然出会った比呂とはるか。
絵が好きで引っ込み思案な似たもの同士の二人は、互いに惹かれあっていきます。
はるかは、初めて比呂の絵を見た時涙を流すんです。そしていつもこんな風に言っていました。
「あなたの描く世界が世界で一番大好き」
折口はるかの恋人は、皓の兄の比呂だったんですね。
比呂から丸尾の事件のことを聞き、怖くなったはるかは比呂を受け入れられず、比呂ははるかの前から姿を消しました。はるかはそれを後悔して、丸尾に手紙を書いたんです。彼女なりの償いとして。
全てのつながりが読者にだけ分かりましたが、肝心の水帆たちはまだ微妙な勘違いの最中です。
神戸にいる比呂を探す皓と丸尾は、神戸に。
そして、皓を探す水帆と矢内・礼美も神戸に来ました。
そしてついに、

水帆と比呂がすれ違う!!やっとか~!長かった~~!これで水帆の誤解も解けるし、何より、折口さんの元彼問題がようやく決着!?
比呂と皓の顔が似てて良かった。あれ?でも似てなかったら、はるかが皓と比呂を間違えて二人が出会うこともなかったし、そしたらこんなことも起きてなかった…?なんだかややこしいですね。
続きは今月26日に発売!半年振りの新刊です。8巻はかなり、クリティカルな内容になりそうです♪
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矢内先輩は社会人になったらモテるタイプ